出版社のつくり方(クラーケンの場合)【設立編】/クラーケン編集長日誌




2016年末から準備を進めていた出版社kraken(クラーケン)の最初の書籍を、先日ようやくリリースすることができました。

第1弾タイトルとなる夏生さえりさんの『口説き文句は決めている』(2017年8月9日発売)は、おかげさまでジュンク堂池袋本店の100冊、三省堂書店札幌店の80冊、紀伊國屋書店新宿本店の70冊、ブックファースト新宿店の60冊など、書店から大量注文が続いています。

出版社を立ち上げてみて痛感したのが、業界内に16年いたにもかかわらず、出版の細部をわかっていなかったということ。

ただ、わからないことばかりで苦労はしたものの、最終的にはほぼ現時点でのベストと思えるかたちで事業をスタートできました。誰かの役に立つかもしれないので、クラーケンの設立までの流れを数回に分けて紹介していきます。

出版社は数万円でつくれる

出版社を立ち上げた理由については、別の機会に書こうと思いますが……。

個人・法人にかかわらず出版社をつくるのは(つくるだけであれば)とても簡単で、ISBNコード(出版”者”コード)とJANコード(定価情報などが含まれたバーコード)の申請を行うだけです。

たいていは6桁のISBNコードを申請することになるはずですが(100タイトルまで発行可能)、費用はわずか数万円。クラーケンの場合は、6桁のISBNコード申請費が3万4000円+税、JANコード登録料が1万円+税(3年毎に更新)でした。

ISBNコードがあれば書誌データベースに登録が可能になり(リアル書店やAmazon等で検索できるようになります。クラーケンは版元ドットコム経由でJPROに書誌情報を配信)、JANコードを発行すれば書店などでの販売が可能(容易)になります。

書誌データベースの登録の仕組みは、編集を長くやっていても知らなかったことのひとつ。版元ドットコムに入力したデータが楽天ブックスやhontoに掲載された時は、「本当に転送されてる!」と感心したものです。

ちなみに、書籍の裏側(表4)につける2段のバーコード(上がISBN、下がJAN)は文字列から印刷所がつくってくれるので、特に作成ソフトなどを買わなくても問題ありません(買ってしまう人もいるらしいので)。

このサイトでも無料で簡単につくれます。

出版社のムダを排除

クラーケン設立において特にこだわったのは、できるだけ固定費を排除することでした。

例えば、大手出版社には当たり前のようにある資材部(紙の相談)や業務部(原価計算)。これらは竹尾の見本帖や印刷所に直接質問すれば、無料かつ即答してもらえます。

無料なのにいつ行っても親切なので、積極的に竹尾の紙を使おうという気持ちが芽生えたほど。ちなみに、『口説き文句は決めている』では、カバー・帯の「ミルトGAスピリット(ホワイト/スノーホワイト)」、見返しの「ポルカ(ライム)」が竹尾の取扱い用紙です。

印刷所にも、最近のトレンドやコストを下げるための工夫を教えてもらいました。「ちょっと高くなるけど」と教わったPUR製本(一般的なアジロ製本よりも開きが良い)も、そのうち使う機会が出てきそうな気がします。

※講談社で本をつくっていた時は資材部や業務部にはお世話になりましたし、みんないい人でした。ただ、自分でやっても特に支障はないしむしろ早いという話です。KADOKAWAとか、いまだに原価計算に1週間以上かかることがありますし。

ほぼ固定費のない出版社

資材部や業務部だけではありません。クラーケンは、ありとあらゆる固定費を排除しました。編集費や営業費、事務所家賃もそれに含まれます。

出版エージェンシー・クラウドブックスとホビーメーカー・ケンエレファントの共同事業だから実現できたことではありますが、2社でそれぞれの編集・営業・デザイン・事務所のリソースを共有。

その結果、業界でも珍しいであろう、ほぼ完全なレベニューシェア型の出版社をつくることができたのです(もちろん赤字だと編集費は出ず、むしろマイナスになります。この緊張感……!)。

条件的には大幅に不利な新規出版社でありながら(既得権益だらけの業界なのです)、固定費を極限まで排除することで、著者やデザイナーに大手と同等かそれ以上にギャランティを支払える仕組みも完成しました。

支払いも刊行月の翌々月払いと、出版社では早いほうです。数字的にも互角以上なので、今後はたくさんの著者と仕事をしていく予定です。

流通ルートは、書店の利益が大きく(通常22%→30%)納品スピードも早い直取引代行会社・トランスビューと契約することになったのですが……このあたりはまた次回に


執筆者


鈴木収春(すずき・かずはる)
クラウドブックス株式会社代表取締役/クラーケン編集長

1979年生まれ。講談社客員編集者を経て、出版エージェンシー・クラウドブックスを設立。ドミニック・ローホー『シンプルリスト』、須藤元気『今日が残りの人生最初の日』、関智一『声優に死す』などを担当。東京作家大学などで講師としても活動中。