この「出版社のつくり方」シリーズも5エントリー目ですが、Amazonのe託について熱く語った前回から、いつのまにか半年が経過。夏生さえりさんの『口説き文句は決めている』と那須川天心選手の『覚醒』のヒットで、クラーケンの運営は絶好調です。
そして本日、3冊目のタイトルとなる和田裕美さんの絵本『ぼくはちいさくてしろい』が無事刊行されました。
9年前に出版された旧版を、小学校の道徳科教科書掲載を機にリニューアル復刊。先行販売イベントや予約などで発売前に初版の17%が販売済みで(図書館からもかなりの注文が)、絶版で買えなかった方が多かったのを実感しています。
絵本の新刊市場は売上ベースで既刊の9分の1
絵本はページ数も少ないし新規参入しやすそうに見えるものの、実はハードルがおそろしく高い分野。先日↓のツイートがバズっていましたが、新刊しか売れない傾向にある一般書とは全く別物の棚と考えていいでしょう。
「絵本作家をやるのであれば、海外に打って出たほうが良い」というのは、日本の絵本業界が完全に閉塞しているから。日本の絵本産業は2015年統計で807億円だが、売上比率を見ると既刊9割、新刊1割なのに新刊が年間1431本出るというラノベよりエグい「売れたものだけが売れ続ける業界」。
— ぬまきち (@obenkyounuma) January 25, 2018
売れっ子作家の話を聞いても、「地道に何年も読み聞かせを続けてきて、ようやく……」みたいなエピソードしかなく、多くの読者を獲得するにはかなりの工夫が必要な印象です。
王道のプロモーションは絵本でも通用する!?
クラーケンの場合は、まずはイベント展開とメディア露出(パブリシティ)という、一般書の王道プロモーションを絵本でも仕掛けています。
イベント第1弾、3月2日開催のパルコブックセンター吉祥寺店の先行販売イベントは大盛況でした。定員30名の会場ですが、立ち見の参加者も出て50冊近くが読者の方に届きました。
3月13日には、J-WAVE「GOOD NEIGHBORS」に和田裕美さんが出演。『ぼくはちいさくてしろい』についてトークいたします(約25分間)。
4月1日には、三省堂書店神保町本店で和田裕美さんのトーク&サイン会を開催。1Fレジカウンター前と6F絵本コーナーで大展開されていて、思わず撮影してしまいました。
三省堂書店神保町本店は都内でも屈指の存在感のある書店。これだけ大きく展開していただけるとPR効果もありますね。
販促グッズは缶バッジ4種。こちらもかなり好評です。
現場からの推薦で教科書掲載が決定
掲載教科書『いきるちから』はシェアNO.1で全国20万人以上の小学1年生がこの春から使用するので、小さな白ペンギンとタイトルの知名度もこれから一気に上がりそうです。
ちなみに、教科書ではペンギン母子の対話ストーリーがダイジェストで掲載された後、以下の問いかけがあります。
「おかあさんが ぼくの よい ところを たくさん しっている わけを かんがえよう」
「じぶんの よい ところは どんな ところだろう」
特に最初の問いが、深いですよね。足の遅さや色の違いに悩む白ペンギンが自分の力で歩き出すストーリーはまさにいまの教育現場に必要だと、先生からの強い推薦があり教科書掲載が決まったとのこと。
短い文章にエッセンスが凝縮されているのも、絵本ならではです(著書多数の和田さんも、本作の言葉選びにはかなり苦心したのだとか)。
関西でのイベント開催や講演会での販売など、まだまだやってみたいことはありますが、白ペンギンの再出発がどうなるか、あたたかく見守っていただけると幸いです。
有隣堂、リブロ、三省堂書店ではチェーンで取扱い中(販売書店リストはこちら)。お近くの書店にない場合は、Amazon(楽天ブックス/honto/ヨドバシ)などをご利用ください。
執筆者
鈴木収春(すずき・かずはる)
クラウドブックス株式会社代表取締役/クラーケン編集長
1979年生まれ。講談社客員編集者を経て、出版エージェンシー・クラウドブックスを設立。ドミニック・ローホー『シンプルリスト』、須藤元気『今日が残りの人生最初の日』、関智一『声優に死す』などを担当。東京作家大学などで講師としても活動中。